$ 0 0 痛いとは言えなかった 診察台の上 呪文を描くように 中指で「痛」と書く 病垂に甬(用いる) 何を用いるのだろう 痛い まだ処置は終わらない 甬 の字が中指の先で 踊り出す 涌(わく) 通(とおる) 樋(とい) 踊(おどる) 蛹(さなぎ) 誦(よむ) 鯒(こち) ようやく処置から解放されて 今度は薬指で 「痛」と書く 通り過ぎねばならない痛みが 甬 人生を豊にしてくれればと 祈るように降りた 診察台の少し暗めのベージュ色