古書 双六
三行前を忘れて 振り出しに戻る 読書という名の 上がりのない双六 だれかの うたた寝の 夢まで染み ついた古書 たちの 三行前を忘れて もうあと戻りが 面倒になった マーカーをたどる 上がりたいばかりの 双六
View Article冬の西日
山際すれすれの光が 影を際立たせ ため息のような吐息にも 影を作る 私の背丈には もう届かなくなった冬の西日の まだ空とビルの窓を染め 嗚呼 どうしようもなく その消息が 知りたくて この黄昏れた町を 走り出す 行き先も 見えなくなった 残照の この空の下を
View Article賀状
そういうシーズンが来たと コンビニのレジ横の 賀状の種種様々 赤いバイクの郵便局員が 「今日の分売れた?」 と言い合って 釣瓶落しの町を すれ違っていく 来年の干支が ふいにわからなくなった 自分に驚きながら 正月が来ることを まだ 漠とであるが 感じてみる
View Articleうすら
雪待ちの空は 魚の腹の色で 粒状の何かしらが 鱗になって ザワザワと 蠢いている あんなに雲の底は 暗いのに サンゴの授精のような 白く灰色のかがやきを 30?先の 山頂に見ることができる ああ それは気配というものだよ ゴムがちびた杖を大地に刺しながら カタカタ老婆が笑う 今朝方うすら雪が積もったがね あんた寝てたでしょ その後は雨だった 図星だね 雪待ち顔の気配が 漂っている
View Article榾火(ほたび)
マッチを擦って 堅めに絞った新聞に火をつける 松や杉の葉を集めた上に薪を延べ それをそっと差し込む 頃合いを見計らって 優しく団扇で火をあおる 焰は赤や朱に姿を変え 時々青く、緑に輝いた そうして湯が沸けば 熱いのゆるいのと 五右衛門風呂を跨いだ 湯はご馳走だったころの とおい昔の まだ心に残る その榾火の 温とさ よ
View Article惹 vs 怠
若い心は靡きやすく それを 惹かれると書く 右に左に靡きながら 腑に落ちるものを 探す旅を指す 疲れた心は見晴らしを求め それを 怠けると書く 高見から眺める台があるから 動かずして 全てがわかった気になる そのことを言う
View Articleログアウト
それを欲し それに満たされ それに酔い それを愛で それに癒やされ それに疲れる あれほど欲しかったものの 記憶が終わる ※ 暮れの廃品達のまだ物語を紡がせようとする 捨てきれない何かが宿っていっそうもの悲しい物たちの物語
View Article雫
煌めきは 何時だって 一斉に やってくる だれかと だれかと なにかと なにか であって ぶつかり合って 煌めいて 煌めきに誘われて 人が集う その最初の雫を 見いだせたら 風を切って 走る時
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